第48号(2015年9月) 3,000円

巻頭言

戦後70年、学会の歩み、歴史研究所感
・・・大友 昌子

特集 戦争・社会福祉・人権―「排除の歴史」を問い直す―

シンポジウムの趣旨とまとめ
・・・大友 昌子 ・ 加美 嘉史
昭和恐慌から戦時下の社会事業―社会事業の成立、変質、厚生事業―
・・・大友 信勝
朝鮮植民地支配と戦後の在日韓国・朝鮮人―同化主義と差別主義―
・・・愼 英弘
20世紀前半ドイツにおける戦争障害者―二つの世界大戦と生活支援の変遷―
・・・北村 陽子
イギリス社会福祉と普遍主義―戦前から戦後へのその展開と問題点―
・・・木戸 利秋
戦時下養老院の生活 断章
・・・小笠原 祐次
総力戦体制下の障害児の保護と教育―包摂と排除の関係、主体に即して―
・・・河合 隆平

投稿論文

戦後日本の『社会事業』誌にみる「社会事業精神」の分析―社会福祉・愛・ヒューマニズム―
・・・野口 友紀子

調査報告

糸賀一雄関係史資料の整理・保存に関する報告―糸賀一雄における実践思想の研究および近江学園施設史研究を射程に入れて―
・・・富永 健太郎

シリーズ・私の研究史

第3回/私の研究史
・・・岡本 民夫

池田敬正先生への追悼

池田敬正先生の視線の先に思いをはせて
・・・池本 美和子
池田敬正先生を偲ぶ
・・・元村 智明

その他

戦後70年にあたっての社会事業史学会の声明

社会福祉系学会会長共同声明 (2015/8/15)

「戦後70年目の8月15日によせて」

1 戦後70年の節目にあたる本年、自衛隊法、PKO協力法、周辺事態法、船舶検査活動法、特定公共施設利用法、国家安全保障会議設置法、武力攻撃事態法、米軍行動関連措置法、海上輸送規制法、捕虜取扱い法の10の法律改正をその内容とする「平和安全法制整備法案」および新たな「国際平和支援法案」の審議が進められている。これらはすでに昨年の集団的自衛権についての閣議決定に沿ったものであるが、従来の自国防衛から、「存立危機事態」へも対応でき、外国軍の後方支援も可能な「積極的防衛」への経路が、国民の安全や他国からの脅威を理由に広げられつつあるといえる。湾岸戦争時に「カネは出すが血は流さない」と国際社会から非難されたともいわれたが、今回の法案は「血を流す貢献」を可能にする環境を整えるものと考えられよう。だがこうした「積極的貢献」が、ある国をめぐる脅威の抑止力になりえるかどうかは、世界の各地で、今日も続けられてきている
戦争の実態から、冷静な判断が必要である。
これらの法案が現行憲法に反し、法治主義をゆがめることについては、憲法学者を中心とした批判がある。ここでは社会福祉学の立場から次のような危惧を表明したい。1.どのような正義の名の下においても、いったん始められた軍事活動は、それが「後方」支援であろうと、同盟国への支援であろうと、そこに巻き込まれた国々の人びとの命と日常生活を一瞬にして奪い、孤児や傷病・障害者を増やすだけでなく、それらの深い傷跡が、人びとの生活に長い影響を与え、しばしば世代を超えて受け継がれていく実態がある。2.子ども、障害者・病者など「血を流す貢献」ができない人びとが、こうした事態の中で最も弱い立場に追いやられる。また民族や性別、階層の分断や排除が強められ、テロ等の温床にもなる悪循環が作られていく。3.これらから生ずる「犠牲者」への援護施策とそのための財政その他の社会的コストは一時的なものではなく長期に要請されることに特に留意したい。戦後70年経ってなお、戦争犠牲者への援護行政が続けられ、またそれを巡ってアジアの諸国との対立が
続いていることがその一端を示している。4.財政再建を理由に社会保障・社会福祉費の削減が続いている今日、もし「積極的貢献」の負担増がこれに優先するようになれば、少子高齢化が深まる日本の社会福祉の未来は、更に暗いものとなろう。

2 他方で、日本社会福祉学会『社会福祉学研究の50年―日本社会福祉学会のあゆみ』(2004)所収の論文「戦後社会福祉の総括」において、著者阿部志郎氏は、戦後社会福祉が「戦時の「万民翼賛体制」のもとでの厚生事業との断絶があり、国家主義の否定の上に、戦後の民主的な社会福祉が到来したと認識しがちである」とし、自らも含めて日本の社会福祉が戦争責任を自覚してこなかったし、「アジアの国々はもちろん、沖縄さえ視野におさめていなかった」ことを深く恥じていると率直に告白されている(p7~8)。その点が、ボランティア運動でさえ「罪責感」を基礎に再出発した戦後ドイツの社会福祉との「決定的相違」だとも強調されている(p8)。私たちは、この阿部氏の告白をあらためて真摯に受け止める必要がある。社会福祉は、一方で一人ひとりの生活に寄り添いながら、同時に「多数の正義」の名の下での支配体制に容易に組み込まれる危険を孕んでいる。このことに社会福祉研究者は常に自覚的でありたい。

3 日本社会福祉関連の各学会は、90年代より国際交流を活発化させ、特に東アジア3カ国ネットワークの実現に向けて努力してきた。また留学生への支援も強化しようとしている。こうした交流の中で、社会福祉の今日的課題の共通性とともに、文化・歴史的背景の違いについての理解も深められている。「戸締まり」に気を配るだけでなく、国を超えた共同研究や実践交流の積み重ねの中で、相互理解を深めていくプロセスをむしろ大事にしたい。残念ながら、最近の政治的「緊張」が、こうした地道な相互理解の努力に水をさすことがある。しかし、回り道のようでも、緊張を回避していく別の回路を模索することが、学会や研究者の役割であり、国際的な社会福祉研究の水準を高める上でも意味があると考える。

戦後70年目の8月15日を迎えるにあたって、社会福祉研究者・実践者として私たちは、「血」ではなく「智」による、「抑止力」ではなく「協力」による未来社会を展望する努力を続けることを誓い合いたい。

2015年8月15日
日本社会福祉学会会長            岩田正美
日本医療社会福祉学会会長          岡本民夫
社会事業史学会会長             大友昌子
日本ソーシャルワーク学会会長        川廷宗之
日本看護福祉学会会長           岡崎美智子
日本仏教社会福祉学会代表理事       長谷川匡俊
日本福祉教育・ボランティア学習学会会長   松岡広路
貧困研究会代表              布川日佐史

「社会福祉系学会会長共同声明」 が出されました。

「戦後70年目の8月15日によせて」と題する社会福祉系学会会長共同声明が出されました。左のバナーの「声明」にも掲載しましたのでお知らせいたします。

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「戦後70年目の8月15日によせて」

1 戦後70年の節目にあたる本年、自衛隊法、PKO協力法、周辺事態法、船舶検査活動法、特定公共施設利用法、国家安全保障会議設置法、武力攻撃事態法、米軍行動関連措置法、海上輸送規制法、捕虜取扱い法の10の法律改正をその内容とする「平和安全法制整備法案」および新たな「国際平和支援法案」の審議が進められている。これらはすでに昨年の集団的自衛権についての閣議決定に沿ったものであるが、従来の自国防衛から、「存立危機事態」へも対応でき、外国軍の後方支援も可能な「積極的防衛」への経路が、国民の安全や他国からの脅威を理由に広げられつつあるといえる。湾岸戦争時に「カネは出すが血は流さない」と国際社会から非難されたともいわれたが、今回の法案は「血を流す貢献」を可能にする環境を整えるものと考えられよう。だがこうした「積極的貢献」が、ある国をめぐる脅威の抑止力になりえるかどうかは、世界の各地で、今日も続けられてきている戦争の実態から、冷静な判断が必要である。
これらの法案が現行憲法に反し、法治主義をゆがめることについては、憲法学者を中心とした批判がある。ここでは社会福祉学の立場から次のような危惧を表明したい。1.どのような正義の名の下においても、いったん始められた軍事活動は、それが「後方」支援であろうと、同盟国への支援であろうと、そこに巻き込まれた国々の人びとの命と日常生活を一瞬にして奪い、孤児や傷病・障害者を増やすだけでなく、それらの深い傷跡が、人びとの生活に長い影響を与え、しばしば世代を超えて受け継がれていく実態がある。2.子ども、障害者・病者など「血を流す貢献」ができない人びとが、こうした事態の中で最も弱い立場に追いやられる。また民族や性別、階層の分断や排除が強められ、テロ等の温床にもなる悪循環が作られていく。3.これらから生ずる「犠牲者」への援護施策とそのための財政その他の社会的コストは一時的なものではなく長期に要請されることに特に留意したい。戦後70年経ってなお、戦争犠牲者への援護行政が続けられ、またそれを巡ってアジアの諸国との対立が続いていることがその一端を示している。4.財政再建を理由に社会保障・社会福祉費の削減が続いている今日、もし「積極的貢献」の負担増がこれに優先するようになれば、少子高齢化が深まる日本の社会福祉の未来は、更に暗いものとなろう。

2 他方で、日本社会福祉学会『社会福祉学研究の50年―日本社会福祉学会のあゆみ』(2004)所収の論文「戦後社会福祉の総括」において、著者阿部志郎氏は、戦後社会福祉が「戦時の「万民翼賛体制」のもとでの厚生事業との断絶があり、国家主義の否定の上に、戦後の民主的な社会福祉が到来したと認識しがちである」とし、自らも含めて日本の社会福祉が戦争責任を自覚してこなかったし、「アジアの国々はもちろん、沖縄さえ視野におさめていなかった」ことを深く恥じていると率直に告白されている(p7~8)。その点が、ボランティア運動でさえ「罪責感」を基礎に再出発した戦後ドイツの社会福祉との「決定的相違」だとも強調されている(p8)。私たちは、この阿部氏の告白をあらためて真摯に受け止める必要がある。社会福祉は、一方で一人ひとりの生活に寄り添いながら、同時に「多数の正義」の名の下での支配体制に容易に組み込まれる危険を孕んでいる。このことに社会福祉研究者は常に自覚的でありたい。

3 日本社会福祉関連の各学会は、90年代より国際交流を活発化させ、特に東アジア3カ国ネットワークの実現に向けて努力してきた。また留学生への支援も強化しようとしている。こうした交流の中で、社会福祉の今日的課題の共通性とともに、文化・歴史的背景の違いについての理解も深められている。「戸締まり」に気を配るだけでなく、国を超えた共同研究や実践交流の積み重ねの中で、相互理解を深めていくプロセスをむしろ大事にしたい。残念ながら、最近の政治的「緊張」が、こうした地道な相互理解の努力に水をさすことがある。しかし、回り道のようでも、緊張を回避していく別の回路を模索することが、学会や研究者の役割であり、国際的な社会福祉研究の水準を高める上でも意味があると考える。

戦後70年目の8月15日を迎えるにあたって、社会福祉研究者・実践者として私たちは、「血」ではなく「智」による、「抑止力」ではなく「協力」による未来社会を展望する努力を続けることを誓い合いたい。

2015年8月15日
日本社会福祉学会会長           岩田正美
日本医療社会福祉学会会長         岡本民夫
社会事業史学会会長            大友昌子
日本ソーシャルワーク学会会長       川廷宗之
日本看護福祉学会会長           岡崎美智子
日本仏教社会福祉学会代表理事       長谷川匡俊
日本福祉教育・ボランティア学習学会会長  松岡広路
貧困研究会代表              布川日佐史

「池田敬正先生を偲ぶ」会のご案内(←2015/9/12 終了しました)

このたび、5月2日にご逝去されました池田敬正先生の思い出とともに、皆様と心からの哀悼の時間を過ごしたいと考え、以下の通り偲ぶ会を開催したくご案内申し上げます。

日時 :9月12日土曜日 13時30分より16時まで
場所 :メルパルク京都 6F(当日部屋名を掲示します)
*京都駅より徒歩1分(駅東側)
住所 〒600-8216 京都市下京区東洞院通七条下ル東塩小路町676番13
電話 075-352-7444
会費 : 3,000円(会場費、設備費、茶菓、資料等の費用になります)

・当日は平服でお越しください。
・参加ご希望の方は、会場等の準備の都合上、6月30日までに、下記の連絡先までご連絡ください。

★皆様から池田先生を偲んでの一言メッセージをいただきたく存じます。
400~800字程度でお寄せいただいたものをまとめまして当日配布したいと思います。
偲ぶ会への参加・不参加にかかわらずお言葉をお寄せください。

<問い合わせ先>
「池田敬正先生を偲ぶ」会 事務局
池本美和子
元村智明

社会事業史学会新会長挨拶

 本学会は1973年5月に社会事業史研究会として、初代会長の吉田久一先生、一番ケ瀬康子先生、高島進先生等21人の発起人の先生方のお力によって発足いたしました。それから40年あまりを経ましたが、この間、1998年に社会事業史学会へと改組され、社会福祉学界における歴史研究者の拠点として、また社会福祉学界における学術研究の一領域として今日まで発展して参りました。そして前会長の永岡正己先生には8年間にわたり歴史研究をリードされるとともに、今日の学会としての体制の礎を築いていただきました。さらに本学会には吉田久一先生をはじめとする篤志をお寄せ下さった先人達がおられます。

本学会は、この学会に参集し、その歩みを支えてこられた多くの研究者のみなさま、学会員のみなさまの学術研究への強い意欲と高い精神性によって支えられてきたと確信いたしております。この度、自らの非力さを顧みず会長職を拝命いたしましたが、学会の発展に微力ながら力を尽くしたいと考えております。みなさまのご指導とご協力を引きつづき賜りたく、なにとぞよろしくお願い申し上げます。

本学会の目的は学会規約第3条に明記されますように「社会事業史の研究を通じ、社会福祉の科学的研究を高め、民主主義に基づいた日本社会福祉の進展に資すること」であります。今日、発展・変貌する社会福祉の動向を見極め、歴史研究の立場からその方向性を吟味し、真に人々の生活に寄り添うための問題意識を共有しつつ、本学会が設立当初から掲げてきた理念をみなさまと共に継承し、社会的使命を果たしていきたいと願っております。

本学会が取り組む必要がある課題は数多いのですが、その一つは、歴史研究の更なる質的向上と研究領域の多様性および拡張をはかることです。関連領域との学術的交流や国際的学術交流が、新たな研究上の挑戦を生み、こうした側面を強化してくれるはずです。そして、研究の質的向上に基づき、社会福祉教育における歴史的思考の有意性を対外的に働きかけていくことが重要です。もう一つは、歴史研究の発展をはかるうえで欠かせない史資料の発掘や保管および地道な地域史、施設史への取り組みと研究方法論探求の重要性です。

社会福祉あるいは福祉の歴史研究が、高く、厚く、深いものとなるよう引きつづき取り組んでまいりますとともに、歴史的研究に関心をもつ多くのみなさまの本学会へのご参加をお待ち申し上げております。

2015年5月10日 大友 昌子

戦後70年にあたっての社会事業史学会の声明 (2015/5/10)

戦後70年、日本に生きる人々は、民主主義、基本的人権の尊重、平和主義を基本とする日本国憲法にもとづき、一人ひとりの生存権を保障するのみならず、あらゆる差別を排除し、世界中の人々と平和的に共存する道を希求し、実現しようと努めてきました。この弛まない努力によって今日の福祉社会が存在しています。

社会事業史学会は、このような歴史的事実をふまえ、社会と社会福祉の科学的認識にもとづいて歴史の研究を高め、民主主義による社会福祉の発展をめざしてきました。私たち社会福祉の歴史研究を行う者は、これまでの社会福祉の発展には、人々の生活の苦闘と、共に生きるための努力と連帯があったこと、そして福祉と平和は一つであることを心に刻みます。

社会事業史学会は、社会福祉の歴史に向き合うものとして、人々の生活の現実に根ざした深い歴史認識を共有することを求めます。すべての個人の尊厳を保持し、先人たちが苦難の中から築いてきた日本国憲法の精神にもとづき、平和と非戦の思想を守り、歴史的事実に真摯に向き合うことを求めます。そして、人権、民主主義、平和の普遍的な価値が守られ、日本社会と社会福祉がさらなる発展を遂げることを願ってやみません。

2015年5月10日
社会事業史学会
会長 永岡 正己

「社会事業史学会声明」が採択されました。

社会事業史学会2015年度総会において下記の声明が採択されましたのでお知らせいたします。

戦後70年にあたっての社会事業史学会の声明

戦後70年、日本に生きる人々は、民主主義、基本的人権の尊重、平和主義を基本とする日本国憲法にもとづき、一人ひとりの生存権を保障するのみならず、あらゆる差別を排除し、世界中の人々と平和的に共存する道を希求し、実現しようと努めてきました。この弛まない努力によって今日の福祉社会が存在しています。

社会事業史学会は、このような歴史的事実をふまえ、社会と社会福祉の科学的認識にもとづいて歴史の研究を高め、民主主義による社会福祉の発展をめざしてきました。私たち社会福祉の歴史研究を行う者は、これまでの社会福祉の発展には、人々の生活の苦闘と、共に生きるための努力と連帯があったこと、そして福祉と平和は一つであることを心に刻みます。

社会事業史学会は、社会福祉の歴史に向き合うものとして、人々の生活の現実に根ざした深い歴史認識を共有することを求めます。すべての個人の尊厳を保持し、先人たちが苦難の中から築いてきた日本国憲法の精神にもとづき、平和と非戦の思想を守り、歴史的事実に真摯に向き合うことを求めます。そして、人権、民主主義、平和の普遍的な価値が守られ、日本社会と社会福祉がさらなる発展を遂げることを願ってやみません。

2015年5月10日
社会事業史学会会長 永岡 正己