第9回韓国社会福祉歴史学会秋期学術大会への参加報告

日 時:2019年11月15日(金)10:00~18:00
場 所:韓国ソウル市内 孝昌(Hyochang)綜合社会福祉館
テーマ:日帝強占期の社会事業
主 催:韓国社会福祉歴史学会
構 成:全体会 自由発表2、企画主題報告5、総合討論
報告者は韓国5人、日本2人で、参加者は日本からの6名を含む38人程でした。
報 告:自由発表と企画報告
<自由発表>
1.創立30周年、社会福祉専担公務員制度の発展過程― 金鎭學 (公共福祉政策研究所, 所長)
2.植民地朝鮮における日本人キリスト者の宣教活動に関する一考察―鎌倉保育園京城支部(龍山区厚岩洞)における曽田嘉伊智の働きを中心として―金清洛(同志社大学神学研究科博士前期課程)
<企画報告>
1.日帝強占期の社会事業の概念と談論―(趙成殷, 韓國保健社會硏究院 硏究委員)
2.植民地朝鮮の児童保護史―田中友佳子(九州大学・学術協力研究員)
3. 日帝の感化事業性格に関する研究―朴貞蘭(仁濟大,教授)
4.鎌倉保育園京城支部【龍山区厚岩洞】の活動実態に関する研究」― 佐竹要平(日本社会事業大学, 准教授)
5.植民地朝鮮における日本仏教の社会事業に対する考察― 諸点淑(東西大,教授)
<総合討論>
1. 朴宗三 (崇実大、名譽敎授)
2. 咸世南 (江南大、名譽敎授)
3. 姜日朝 (孝昌綜合社会福祉館、 館長)
4.金炳参(永楽保隣院、院長)
5. 申惠玲 (韓國兒童福祉學會,理事)

参加の感想と報告

本年5月の学会総会において、社会事業史学会は韓国社会福祉歴史学会と学術交流の「覚書」を締結しました。今回は締結後初めての韓国社会福祉歴史学会秋季学術大会への参加となり、社会事業史学会からは6人の会員(大友昌子、西﨑緑、佐竹要平、田中友佳子、宇都宮みのり、咸麗珍)が参加しました。韓国側参加者を含めて、およそ38人の参加者数でした。
学会テーマは「日帝強占期の社会事業」で、日韓関係が最悪と言われる現在の政治状況のなかで、勇気あるテーマ設定であったと思います。報告内容をピックアップしますと、公共福祉政策研究所所長金鎭學氏は、韓国の社会福祉専門公務員の市町村配置が1989年に開始され、2年間の全国的な教育研修を実施して、現在は社会福祉士の有資格者を中心に23,000人の公務員が配置されているとのこと。社会福祉専門職第一世代がリタイアの時期を迎え、記録の必要性が浮上しています。もう一人、韓國保健社會硏究院硏究委員趙成殷氏は、1920年代の「社会事業」の概念と言説を取りあげ、日本の文献の言説とともに韓国の雑誌などを資料に考察しました。朴貞蘭氏(仁濟大教授)の報告では、日帝時代の感化事業について整理された鋭い分析とそれに基づく考察がなされていました。これらの韓国側の報告内容については、より詳細な通訳があれば内容を十分に理解できたと思いますが、大変残念でした。日本の会員田中友佳子氏(九州大学・学術協力研究員)は、近著を踏まえ、「植民地朝鮮の児童保護史」を現地の言語で報告しました。これは大変画期的なことで、今後こうした両国を知る研究者による共同研究が進むことを願った次第です。鎌倉保育園京城支部をめぐっては、2つの研究報告がなされました。「植民地朝鮮における日本人キリスト者の宣教活動に関する一考察―鎌倉保育園京城支部(龍山区厚岩洞)における曽田嘉伊智の働きを中心として」が金清洛氏(同志社大学神学研究科博士前期課程)によって、また「鎌倉保育園京城支部【龍山区厚岩洞】の活動実態に関する研究」が佐竹要平氏(日本社会事業大学准教授)によって報告されました。植民地下の日本人による活動を、どう評価するのか、韓国内では難しい課題ですが、いずれの報告も客観的であることを研究方針としており、聴衆の受け止め方も概ね好評でした。最後は「植民地朝鮮における日本仏教の社会事業に対する考察」で 諸点淑氏(東西大学教授)が、植民地下の隣保館的な働きをした仏教系の「向上会館」の活動について図表などを駆使した優れた分析をされました。韓国社会に支配者として内在した実践者たちという指摘があり、視点や分析方法が明確であることの重要性がこの報告から浮上したと思います。総合討論では、朴宗三氏(崇実大学名譽敎授)の発言について通訳から聞き取れた範囲で言及しますと、韓国社会福祉歴史学会が始まって以降、韓国社会福祉の歴史研究の急速な進展が見られること、アメリカ宣教師などの活動については整理されているが、日帝時代の社会事業の研究は少なく、この時代の客観的で科学的な確認が必要であるとの主張がなされていました。また、社会事業概念の検討など、研究テーマが拡大していることも評価されていました。大友の経験ですが、植民地研究をすることは、日本について研究することなのです。この日本とその隣国にとって最悪の時代でありました帝国主義の時代を正視し、冷静で客観的な認識を深めることが、両国の人々にとって重要であることはいうまでもないでしょう。
今後両国の学会の学術交流に加え、中国も含めて三国の学術交流が進む方向で展開することと思います。なお、学会終了後、韓国社会福祉歴史学会総会に参加の機会を得ました。そこで次年度以降の新たな会長にCHOI WON GYU氏(全北大学校教授)が2020年1月より2年間の任期で就任されることが決まりました。
今回の学会開催準備と社会事業史学会への深い配慮とおもてなしに、金会長はじめ韓国社会福祉歴史学会の皆様に、心より感謝を申し上げます。(大友昌子)