第51回記念大会開催にあたって

第51回記念大会開催にあたって

金子光一

 皆さま、こんにちは。社会事業史学会会長を務めさせて頂いております。東洋大学の金子光一です。第51回記念大会の開催にあたりまして一言ご挨拶申し上げます。
 社会事業史学会の前身の社会事業史研究会は、1973年に設立され、今年2023年で創立50周年を迎えます。50周年を迎えるにあたり、本学会は「学会創設50周年記念事業委員会」を設置し、第50回記念大会の開催、『50年史』の刊行、『記念論文集』の出版という三つの大きな柱をたて、記念事業を推進して参りました。お蔭様で『記念論文集』は、昨年10月末に大友昌子委員長のご尽力で無事近現代資料刊行会より発行することができました。50周年記念論文集刊行委員会の委員の皆さま、ご協力頂いた会員の皆さまに、心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。

 そして通算51回目になります本大会は50周年記念大会の2年目にあたります。新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止の観点から、昨年度までは、オンラインで開催しておりましたが、今月初めに国の方針も5類に移行したこともあり、本大会から対面で開催できることになりました。2019年に北星学園大学で開催されて以来、4年ぶりの対面開催となります。大変喜ばしいことだと思っております。

 この記念大会の実現に向けて多くの方々にご協力頂きました。とりわけ、開催校である淑徳大学さまに対して、心よりお礼申し上げます。大会長の長谷川匡俊先生をはじめ、淑徳大学の先生方のご協力があって、昨年度に続きまして大会が開催できますことを、お礼申し上げたいと思います。ありがとうございました。

 また、本日の大会には、海外から多くの研究者の方々にご臨席頂いております。中国慈善史学会の副会長の郭先生と蔡先生、韓国社会福祉歴史学会の元会長崔先生、国際委員長の鄭先生、ご出席頂き、ありがとうございます。

 先生方からは後ほどご挨拶頂きますが、直接お目にかかれない状況が続くコロナ禍であっても、三ヵ国協定に基づく国際交流が活発に、そして着実に行えていたことを、大変有り難く思っております。

 さて、昨年度もこの場でお伝えしましたが、世界中の人びとを震撼させる出来事がいまだ終息することなく続いています。ロシア軍によるウクライナに対する軍事侵攻です。軍事侵攻の結果として、子どもたちを含む尊い多くの生命が奪われました。拘束、拉致、暴行など人権を侵害する行為も各地で起こっています。これらの行為は、平和で民主的な社会を求める者への挑戦であり、断じて許すことはできないことを、本学会を代表して改めて申し述べたいと思います。

 また、今日の社会状況に目を向けますと、所得格差、少子化、環境の悪化、科学技術・情報通信技術の進歩など、さまざまな課題や動きがあります。
とりわけ、科学技術・情報通信技術の先進的な取り組みとしては、ChatGPTやGoogle Bardをはじめとする生成系AIが話題になっています。昨年末に公開された対話型の生成系AIは、今までのコンピューターとは異なるレベルの人工「知能」を現実にしました。その意味で、蒸気機関という人工「動力」が人間の筋力を超え、置き換えた産業革命に匹敵する人工「知力」の歴史的な転換点といえます。
 私たち研究者もこの「革命」から逃れることはできません。そしてこの「革命」が歴史上類を見ないスピードで進められていることで、社会がこれに対応できなければ多くの悲劇を生むことになりかねないと言われています。
 事実、情報の格差が排除を生み、ChatGPTなどにクレームをつけた国が国際競争において不利益を被っている実態があります。まさに産業革命時に社会体制の変化に伴って生じた貧困や革命に乗り遅れた国の後進化と同じ現象が起こりつつあります。

 そのような時代に求められることこそ、私は研究・開発における価値と倫理だと思います。ChatGPTも国際協調によるルール作りが求められています。それは、ある意味では、人文社会科学の英知を結集しなければ解決できない問題です。

 とりわけ、研究と教育が一体となり、社会的実践(実践の知)を展開する社会福祉学は、単に目的に対する手段として「役に立つ」だけではなく、目的・価値を創造することにおいて「役に立つ」学問領域だと考えます。例えば、社会福祉学が学術的に「相互承認」を研究し、それを価値として創造することができれば、福祉ニーズをもつ当事者ばかりでなく、社会全体にとても有益です。最近の文部科学省の「次期教育振興基本計画(案)」などを見ますと、「ウェルビーイング」がキーワードのように使われていて、今さら…と思いますが、そのような動きも価値の創造という視点から言えば、社会にとってよいことだと思います。

 そして、変化する多元的な価値の尺度を視野に入れながら、価値の創造過程(プロセス)を検証するのが歴史研究であり、その役割はとても大きいと思います。過去から現在までどのような流れで価値が形成され、これからどのような価値が求められるのか、検証できるのは歴史研究をおいてありません。そしてそれは人間でなければできません。

 そのような意味で社会事業史学会が果たすべきことは、計り知れないと考えます。

 今こそ、本日ご参加頂いている皆さま方、学会員の皆さま方のお力が求められていると考えます。何とぞ宜しくお願い申し上げます。

 4年ぶりの対面での大会が意義深い大会となることを祈念して、誠に簡単ではありますが、第51回記念大会の開会の挨拶に代えさせて頂きます。

 ありがとうございました。