声明

社会事業史学会理事会声明 (2015/9/30)

日本学術会議幹事会声明「これからの大学のあり方-特に教員養成・人文社会科学系のあり方-に関する議論に寄せて」を支持する

 日本学術会議幹事会は、2015年6月8日の文部科学大臣通知「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」に対し、同年7月23日「これからの大学のあり方-特に教員養成・人文社会科学系のあり方-に関する議論に寄せて」1)と題する声明を行った。本学会理事会はこの日本学術会議幹事会声明を基本的に支持するとともに、ここに意見表明を行うこととした。
 今日、社会福祉学系の大学教育はその多くを私立大学が担っているが、文部科学大臣通知は日本の学問・学術のあり方および大学教育に大きく影響する内容を含むことに鑑み、社会福祉学系の教育・研究にたずさわる責務から、人文社会科学系教育の重要性とその意義をめぐる本学会理事会の見解を公にしたい。

1.人文社会科学系の研究・教育は、人間と社会のあり方を根本的に問う学問・学術として、重要な意義を有し、高等教育のうちに明確に位置づけられなければならない。人文社会科学系の見直しを含む文部科学大臣通知への危機感を表明した日本学術会議幹事会声明を本学会理事会は支持する。

2.社会福祉は、歴史的社会的存在であり、時代社会の構造的変動の過程において、必然性をもって生起する生活上の諸問題を対象として営まれるものである。そのため社会福祉学では、課題を発見・認識し、これを社会構造との関連で問題として理解し、人々の課題をその人の問題として捉え直すところから学びが始まる。そこで求められるのが歴史的思考である。
 また、社会福祉系の大学等において実施されている専門職養成は、バランスのとれた科学的で創造的な学問・学術および思考力によって支えられる。とりわけ、歴史的思考は人と社会を構成する多様な要素やそれらの相互作用を理解し、問題が生成されるメカニズムを認識し、同時にそこに現象する人間の尊厳とはなにかを見定める統合的な視野と方法、そして判断力を提供することができる。
 こうした観点から、人文社会科学系の一領域である歴史系教育が社会福祉系教育の基礎として重要であることをここに表明し、この見解を広く共有していきたい。

注1) www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-23-kanji-1.pdf参照

                    2015年9月30日
                           社会事業史学会理事会

社会福祉系学会会長共同声明 (2015/8/15)

「戦後70年目の8月15日によせて」  

                   
1 戦後70年の節目にあたる本年、自衛隊法、PKO協力法、周辺事態法、船舶検査活動法、特定公共施設利用法、国家安全保障会議設置法、武力攻撃事態法、米軍行動関連措置法、海上輸送規制法、捕虜取扱い法の10の法律改正をその内容とする「平和安全法制整備法案」および新たな「国際平和支援法案」の審議が進められている。これらはすでに昨年の集団的自衛権についての閣議決定に沿ったものであるが、従来の自国防衛から、「存立危機事態」へも対応でき、外国軍の後方支援も可能な「積極的防衛」への経路が、国民の安全や他国からの脅威を理由に広げられつつあるといえる。湾岸戦争時に「カネは出すが血は流さない」と国際社会から非難されたともいわれたが、今回の法案は「血を流す貢献」を可能にする環境を整えるものと考えられよう。だがこうした「積極的貢献」が、ある国をめぐる脅威の抑止力になりえるかどうかは、世界の各地で、今日も続けられてきている
戦争の実態から、冷静な判断が必要である。
 これらの法案が現行憲法に反し、法治主義をゆがめることについては、憲法学者を中心とした批判がある。ここでは社会福祉学の立場から次のような危惧を表明したい。1.どのような正義の名の下においても、いったん始められた軍事活動は、それが「後方」支援であろうと、同盟国への支援であろうと、そこに巻き込まれた国々の人びとの命と日常生活を一瞬にして奪い、孤児や傷病・障害者を増やすだけでなく、それらの深い傷跡が、人びとの生活に長い影響を与え、しばしば世代を超えて受け継がれていく実態がある。2.子ども、障害者・病者など「血を流す貢献」ができない人びとが、こうした事態の中で最も弱い立場に追いやられる。また民族や性別、階層の分断や排除が強められ、テロ等の温床にもなる悪循環が作られていく。3.これらから生ずる「犠牲者」への援護施策とそのための財政その他の社会的コストは一時的なものではなく長期に要請されることに特に留意したい。戦後70年経ってなお、戦争犠牲者への援護行政が続けられ、またそれを巡ってアジアの諸国との対立が
続いていることがその一端を示している。4.財政再建を理由に社会保障・社会福祉費の削減が続いている今日、もし「積極的貢献」の負担増がこれに優先するようになれば、少子高齢化が深まる日本の社会福祉の未来は、更に暗いものとなろう。

2 他方で、日本社会福祉学会『社会福祉学研究の50年―日本社会福祉学会のあゆみ』(2004)所収の論文「戦後社会福祉の総括」において、著者阿部志郎氏は、戦後社会福祉が「戦時の「万民翼賛体制」のもとでの厚生事業との断絶があり、国家主義の否定の上に、戦後の民主的な社会福祉が到来したと認識しがちである」とし、自らも含めて日本の社会福祉が戦争責任を自覚してこなかったし、「アジアの国々はもちろん、沖縄さえ視野におさめていなかった」ことを深く恥じていると率直に告白されている(p7~8)。その点が、ボランティア運動でさえ「罪責感」を基礎に再出発した戦後ドイツの社会福祉との「決定的相違」だとも強調されている(p8)。私たちは、この阿部氏の告白をあらためて真摯に受け止める必要がある。社会福祉は、一方で一人ひとりの生活に寄り添いながら、同時に「多数の正義」の名の下での支配体制に容易に組み込まれる危険を孕んでいる。このことに社会福祉研究者は常に自覚的でありたい。

3 日本社会福祉関連の各学会は、90年代より国際交流を活発化させ、特に東アジア3カ国ネットワークの実現に向けて努力してきた。また留学生への支援も強化しようとしている。こうした交流の中で、社会福祉の今日的課題の共通性とともに、文化・歴史的背景の違いについての理解も深められている。「戸締まり」に気を配るだけでなく、国を超えた共同研究や実践交流の積み重ねの中で、相互理解を深めていくプロセスをむしろ大事にしたい。残念ながら、最近の政治的「緊張」が、こうした地道な相互理解の努力に水をさすことがある。しかし、回り道のようでも、緊張を回避していく別の回路を模索することが、学会や研究者の役割であり、国際的な社会福祉研究の水準を高める上でも意味があると考える。

 戦後70年目の8月15日を迎えるにあたって、社会福祉研究者・実践者として私たちは、「血」ではなく「智」による、「抑止力」ではなく「協力」による未来社会を展望する努力を続けることを誓い合いたい。

           2015年8月15日
             日本社会福祉学会会長           岩田正美 
             日本医療社会福祉学会会長         岡本民夫
             社会事業史学会会長            大友昌子
             日本ソーシャルワーク学会会長       川廷宗之
             日本看護福祉学会会長           岡崎美智子
             日本仏教社会福祉学会代表理事       長谷川匡俊
             日本福祉教育・ボランティア学習学会会長  松岡広路
             貧困研究会代表              布川日佐史

戦後70年にあたっての社会事業史学会の声明 (2015/5/10)

 戦後70年、日本に生きる人々は、民主主義、基本的人権の尊重、平和主義を基本とする日本国憲法にもとづき、一人ひとりの生存権を保障するのみならず、あらゆる差別を排除し、世界中の人々と平和的に共存する道を希求し、実現しようと努めてきました。この弛まない努力によって今日の福祉社会が存在しています。

 社会事業史学会は、このような歴史的事実をふまえ、社会と社会福祉の科学的認識にもとづいて歴史の研究を高め、民主主義による社会福祉の発展をめざしてきました。私たち社会福祉の歴史研究を行う者は、これまでの社会福祉の発展には、人々の生活の苦闘と、共に生きるための努力と連帯があったこと、そして福祉と平和は一つであることを心に刻みます。
 
 社会事業史学会は、社会福祉の歴史に向き合うものとして、人々の生活の現実に根ざした深い歴史認識を共有することを求めます。すべての個人の尊厳を保持し、先人たちが苦難の中から築いてきた日本国憲法の精神にもとづき、平和と非戦の思想を守り、歴史的事実に真摯に向き合うことを求めます。そして、人権、民主主義、平和の普遍的な価値が守られ、日本社会と社会福祉がさらなる発展を遂げることを願ってやみません。

                                           2015年5月10日
                                           社会事業史学会
                                           会長 永岡 正己